この時点で開始すべき抗菌薬はどれか。
75 歳の女性。人工膝関節置換術のため入院中である。現病歴 : 7 日前に右変形性膝関節症に対して人工膝関節置換術を実施し、入院中である。3 日前から右膝の疼痛を自覚していた。前日から鎮痛薬を内服したが、疼痛が増悪し歩行困難となった。また38 ℃台の発熱も出現した。既往歴 : 60 歳から高血圧症と糖尿病に対して内服治療中である。生活歴 : 65 歳まで小学校の教師をしていた。夫と2 人暮らし。アレルギー歴はない。家族歴 : 父が高血圧症、母が糖尿病。術後7 日目の現症 : 意識は清明。身長154 cm、体重50 kg。体温38.1℃。脈拍124/分、整。血圧88/50mmHg。呼吸数24/分。SpO2 96 %(room air)。眼瞼結膜はやや貧血様で、眼球結膜に黄染を認めない。頭頸部に異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。背部に異常を認めない。右膝は手術創周囲に発赤と腫脹があり、疼痛で可動が困難である。創部の離開や滲出液は認めない。他の部位に皮膚の異常を認めない。検査所見 : 尿所見:蛋白(±)、糖1 +、潜血(-)。血液所見:赤血球372 万、Hb 11.3 g/dL、Ht 32 %、白血球11,900(桿状核好中球12 %、分葉核好中球79 %、好酸球1 %、単球2 %、リンパ球6 %)、血小板10 万、PT-INR 1.34(基準0.9~1.1)、血漿フィブリノゲン810 mg/dL(基準186~355)、D ダイマー5.7 μg/mL(基準1.0 以下)。血液生化学所見:総蛋白6.2 g/dL、アルブミン3.0 g/dL、総ビリルビン0.8mg/dL、AST 30 U/L、ALT 20 U/L、LD 220 U/L(基準124~222)、ALP104 U/L(基準38~113)、γ-GT 29 U/L(基準9 ~32)、CK 150 U/L(基準41~153)、尿素窒素15 mg/dL、クレアチニン0.6 mg/dL、血糖228 mg/dL、HbA1c6.5 %(基準4.9~6.0)。Na 138 mEq/L、K 3.8 mEq/L、Cl 103 mEq/L。CRP 34mg/dL。指導医と共に右膝関節穿刺を実施した。関節液のGram 染色所見(別冊No. 9)を別に示す。
この時点で開始すべき抗菌薬はどれか。
- ⑴ アンピシリンMRSAや多くのブドウ球菌に無効で、院内発症の人工関節感染の初期治療として不十分です。
- ⑵ クラリスロマイシンマクロライド系で静菌的であり、重症の人工関節感染の治療には不適切です。
- ⑶ クリンダマイシンMRSAに対する効果が不確実で、重症例の初期治療として不十分です。
- ⑷ バンコマイシン院内発症の人工関節感染でMRSAをカバーするため、開始すべき抗菌薬です。
- ⑸ ミノサイクリンテトラサイクリン系で、重症の人工関節感染の初期治療としては不適切です。
この問題は別冊の図版(写真・図・表など)を見て答えます。図はこちらに転載していないため、下の出典のページから公式のPDFをご覧ください。解説だけでも読み取り方が分かるように書いています。
解説
正解は⑷です。人工関節術後の化膿性関節炎で敗血症性ショックに近い状態であり、関節液のGram染色ではブドウ球菌を示唆するグラム陽性球菌の集簇が示されていると考えられます。院内発症の手術部位感染では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や表皮ブドウ球菌の頻度が高いため、培養結果が判明するまでの経験的治療として、MRSAに有効なバンコマイシンを開始します。感受性判明後に適切な薬剤へ変更します。
出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp240424-01.html)を加工して作成